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Michael Kuhn – Arguing about theories and political opinions

コロナウィルス 5:国民国家の世界における対立に、国家、その国民、そしてその国の経済はどう備えているのか

ウィルスとの闘いにおいて、その闘いに臨んでいる国家が、ウィルスとは全く無関係であるが重要な国家の問題として捉えている人々が存在する。その人々が健康か否か、そんなことは全くどうでも良く、重要なのは人々の国籍である。ふさわしくない国籍の人々は入国を禁じられ、他国に滞在している人々は国籍のある国に即座に戻ることが「強く推奨」されている。ここでも、この決定に異議を唱える個人的な理由は、それが休暇であろうが何であろうが存在しない。この場合の例外も仕事、つまり経済に関連する義務的な行為である。そうでなければ、母国に戻らなければならないのだ。そして、これは単にひとつの国が行っていることではなく、様々な形ではあるが、すべての国がその国民に対して行っていることである。もしも、国家が彼らの健康の面倒を見られるように海外にいる国民は母国に帰らなければならないと帰国者が考えているとするならば、国家の大臣たちはその誤った解釈をも喜んで受け入れるだろう。帰国者が考えていることは誤りであるし、すでに彼らは、このことが健康とは無関係であることに気づいているかもしれない。なぜなら、そうでなければ、病気ではなく不適格な国籍を理由に、国家が他国民の入国を禁じることはないからだ。不適格な国籍を持つ者はこの国に属していない。だから自らが属す場所にいなさい。遅くとも自国に到着した時に、彼らが感染して帰ってきたことにより自国の医療システムが崩壊してはいけないと伝えられたことをメディアを通じて知ることになる。つまり、感染した者は目の前にいる他者を混乱させる存在なのだ。
そうして、なぜすべての不適格な国籍の人間が入国を禁じられているのかという疑問に答えることによって、これまでいた場所に滞在していてはいけない理由が、明らかになる。もし、これがウィルスを持ち込むことに関することだと思っているのなら、それは間違いである。もしそうであれば、世界各地から帰国するように命じられたすべての自国民は、入国前に検査を受け陰性であると分かった場合のみ、入国を許可されるはずである。しかし、実際に起こっていることはそうではない。そして、他国民を出国させないことはさらに病気とは無関係であり、(出国させれば)潜在的に存在する感染者を国内から減らすことができる(にもかかわらず出国も許さない。) この出入国に関する政策全体で重要なことは、英国籍の者は英国へ、日本国籍の者は日本へ、など、要するに国籍だけである。国籍に応じて、これからは全員が自身の属する国に留まるのだ。病気であろうがなかろうが、その他の事は関係ない。重要なことは、国籍でそれぞれの国民が、国籍に応じて本来所属する場所へ戻されることである。これが唯一大事なことで、他のことはどうでも良い。ウィルスによる病気や他の国に旅行した人の個人的な関心などは。
こうなると、これは一体どういうことなのかと自問する人もいるだろう。それに対する最初の答えは明快だ。各国家は自国民を自国に留めておきたいのだ。換言すると、国家はその国民を外国に留めておきたくないということになる。
このことがどういうことかという疑問に答えるのは、米国がこのウィルスを「武漢ウィルス」と呼ぶことを主張して他国の同意を取り付けようとしたり、世界の政情がこのウィルスの呼び方に左右されたりしていることを考える際に極めて有益である。明らかに、G7諸国のリーダーがウィルスとの戦争や世界政治におけるそれ以外のことを話し合う際に、このような合意が意味することといえば中国に対する敵意についての合意以外の何物でもない。そして、もしそうでない場合は何も起こらないのだ。つまり、米国にとって非常に重要なことは、世界の大国全体が中国を共通の敵として定義することなのだ。
ウィルスとの戦争を戦時のような言葉で宣言することで、全国家は突然、短期間のうちに別の形式の国家間協力を打ち出した。米国だけでなく、その他の国家も、このウィルス戦争との関連において米国が受けた損害について中国を非難し、このウィルスを「武漢ウィルス」と呼んだ。そして、この名前とともに、米国は欧州各国も攻撃した。米国の言い分では、欧州諸国がこの中国からの敵を欧州経由で米国にこっそりと持ち込んだということである。欧州の場合、これはいかに国家が敵意を分類するかということを示している。中国はそれに対して反論し、その解釈をウェブ上の狂気じみた人によってではなく、政府の報道官によって世界に伝えた。中国の言い分は、中国にこのウィルスを仕掛けたのは米国だ、ということである。欧州諸国、特にこれまでの歴史上においてロシアの敵として訓練してきたドイツは、このウィルスを利用してこれと同様の敵意の溢れる振る舞いに忙しい。ロシアは 、欧州各国がイタリアに対して行わなかった援助物資の供給を行い、欧州連合の連帯を貶めることでそれに対して応酬した。 米国がキューバからの支援の打診を断っている一方で、中国人やロシア人が、こうしておおっぴらに戦術を仕掛けてイタリアに救助物資を送っているのは、こうしたことからである。
このように、ウィルスは世界を席巻し人類を攻撃している。この人類は国家からなる世界に生きており、ウィルスとの戦争はその戦争によって焚きつけられた国家の間における敵意の新たな場所となっている。政治とメディアにおける議論がこのウィルスに占領され、そこではウィルスとの戦争は何よりも国民の健康についてであるかのように描写されているが、このウィルスとの戦争が本当に意味しているものは何か、戦争、犠牲者、そして共に立ち向かおうなどというような大げさな戦時のような論調は実際には何のためなのか、という点を見逃すべきではない。
各国内における、国民に対する国家統治の実施という政治プログラムは(ブログ2、3、4参照)、ウィルスとの戦争とその経済的成果から現われ、国家が他国と相対する時のために国内の統治力を強化することを目的としている。とりわけ、このことは、このウィルス以前に全経済分野にわたって互いに制裁を課し、現在そして未来において世界でどの国が強い発言権を持つのかを争うために相手国の経済を席巻してきた他ならぬ経済戦争で互いに戦ってきた国家にも当てはまる。このウィルスが広まるずっと前に、この国家からなる世界はすでに経済戦争という戦時だったのだ。自分たちの健康問題にとらわれて国民はこのことを忘れてしまったかもしれないが、国内および多くの国家からなる世界において誰に発言権があるのかという質問にのみ関心がある政治家たちはこのことを忘れてはいない。
このウィルスとの戦争でこうした国家全てが何を行っているのかを見れば、世界の国家が同じことをしているのがここでもわかるだろう。最優先事項は、自国経済に史上類を見ない額のクレジットを供給することである。このことに関する合意や交渉は、(各国間で)通常ならば行われるのであるが、この場合全く行われない。それぞれの国が決定するだけで、交渉などはないのである。
国家間での合意なく国内経済に十分なクレジットを供給するということは、危険なことである。なぜなら、そうすることにより、すでに存在する制裁を伴った苛烈な経済戦争が、ますます激しくなるからである。これまでこれらの国が取り付けてきたこの種の合意においては、実際には、国内経済を強化するために自国が発行するクレジットが他国の国家予算および経済に対してどれほどの経済的損失を与えるかという点に注意を払ってきた。そのため、少なくとも他国の経済全体または産業全体を破壊しないような方法で、国家間でクレジット発行に関する政策について交渉してきたのだ。これは、米国が中国との交渉において行ってきたことであり、米欧間の交渉についても同様である。他国経済に対して自国経済を強化するために行われるクレジット発行政策が今後予告や交渉さえもないばかりか、過去に前例のない規模で行われるということは、その膨大なクレジットが巨大な火種を抱えていることを意味する。
各国の財務大臣は、先週自国経済のための巨額な小切手を手にカメラに向かって満面の笑みを見せていたが、この笑みはとりわけ海外の同僚である財務大臣に向けてのものだった。そこには次のようなメッセージがある。「世界の国家よ、これを見たまえ。我が国は将来我々の間で起こる、経済のどの部分およびどの国の経済が価値のないものになるのかという問題に対して十分に準備はできている」。このことが何を意味し、どのようなことがここで伝達されているのか、誰もが想像できるだろう。ほどなく、ウィルスについての話題は終わるだろう。これは、物事がこれからどのように続いていくのか、というこれまで多く議論されてきた疑問に対する返答である。
全員が実行してきた戒厳令とそれに関連する行動は、これまでのところ成功裡に完結したと言って差し支えはなかろう。政治エリートは全てを管理下に置き、広範囲にわたってそれに反対するものの形跡も見当たらない。ビジネス界は政治家が言わんとしていることを理解し、他国と競争するために過酷な条件を自らに課している。労働組合は国のために何をしなければならないのかを知っており、給与を断念している。そして、国民たちは、不平を言いながらもそれに従っているのだ。
このような時期に自国民が外国にいることを国家が好まず、自国民が海外渡航することを禁じ、海外にいる者を連れ戻すのはなぜか、ということについてようやくここで説明がつくだろう。国家同士はお互いをよくわかっている。なぜなら、国家は自身についてわかっているため他国の動向も予測できるのだ。例えば、他国が嫌がることでその国にプレッシャーをかけることができるのもそのためである。そう考えると、自国民が海外の領土にいるということは、政治的な悪夢なのである。なぜなら、海外の領土にいる自国民はその領土を所有する国にとって自国に対する脅迫の手段になりうるということは政治家であればすぐに分かることだからである。だから、全員が自国に戻らなければならないのだ。ウィルスとの戦争においては、害のない観光客一人一人が、政治家の目には敵国の手に渡った民間人の兵士のように映るということは、読者諸君もすでにわかっているだろう。全員帰国については問答無用であり、これら一連の動きは真の国家行動として行われる。各国の外務大臣が登場し、自国民と海外諸国に対して報道を通じて、これは健康に関する問題ではなく、国家間における国家の問題なのだ、と発表するのである。
(Translated from English to Japanese by Kazumi Okamoto)


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